2015年7月24日金曜日

反出生主義について

David Benatar著 'BETTER NEVER TO HAVE BEEN'より

"The central idea of this book is that coming into existence is always a serious harm."
「この本の中心的な考え方というのは、存在に至るというということは常に深刻な害であるということである」

本の中で展開される「反出生主義」とは、子供を産むことを否定する哲学である。
その根拠は次の一点にある。

"One can never have a child for that child' sake"
「人は、生まれてくる子供のために子をもうけることなど決してできない」

これが反出生主義の根幹をなす思想である。
すなわち、この思想は、「既に存在しているもの」ではなく、「これから存在に至ろうとするもの」の立場を考えるものである。そもそもこの世に生を受けることがなければ、あらゆる苦しみを避けられるというわけである。




反出生主義に関して他の記述も示しておこう。


ショウペンハウエル著「自殺について」(岩波新書)からの引用

もしも生殖の行為が欲情にともなわれた要求ではなしに、純粋な理性的考慮の仕事だとしたら、人類はそれでもなお存続しえただろうか。むしろ誰もがきたるべき世代に対して深い同情を感じて、なるべくなら彼らには現存性の重荷を背負わせたくないものだと思ったり、乃至は少なくとも自分ではそういう重荷を無情にも彼らに背負わせるような真似はしたくはないと思ったりはしないであろうか。世界はまさしく地獄に他ならない。そして人間は一方ではそのなかでさいなまれている亡者であり、他方では地獄の鬼である」

「何ら主観的な情熱も欲情も生理的衝動もなしに、純粋な熟慮と冷静な目論見だけからして人間をこの世に送り出してそこに生存させようなどということは、これは倫理的にみて甚だいかがわしい行為なのではなかろうか」


ショウペンハウエルが述べるように、苦しみが存在することを認めるならば、子をもうけることを理性的に正当化することは困難である。あるいは不可能なのかもしれない。

意図的に子どもを産もうとするなら、それは産む人間のエゴに他ならない。そして文字通り一人の人間の命を賭することになるのだ。それを認めなければならない。